Beauty and Beast



部活終わり、もうひとっ走りしてきたいと言う体力オバケの嵐さんと別れ、
オレと先輩は一緒に帰ることになった。

海沿いの道を、なるべくゆっくり歩く。
先輩の歩調に合わせてあげてるのもあるけど、どっちかって言えば
オレが少しでも先輩と一緒にいてぇ、って言うのが本音。

ああ、オレ、なんでこんなにこの人に惚れちゃってるんだろう。

入学早々、柔道部に勧誘されて、勢いで入っちゃったけど、
幽霊部員だよなー、なんて軽く考えてたオレを、
嵐さんと組んでしつこいくらい捕まえに来るんで、最初はちょっとウザイ、って思ってた。
それなのに、さ。

確かに可愛いとは思ってたよ?
思わずナンパしたくなるくらいだからさ、基礎レベルは高いって。
だけどこの新名旬平様が、まさか本気ではまるなんて。
思ってなかったよ、な。

「どうしたの?なんか考え事?」
「えっ? うーん、まあね。オレも悩める青少年ですし?」
「何か悩み事あるの? 相談なら乗るよ?」
「いやいやいや。大丈夫だって。大したことじゃないし。」
「そう? もし女の私には話しにくいことだったら、嵐に相談してみるとか。」

そんなのもっと無理。
嵐さんが先輩のこと好きなの、バレバレだもん。
ライバルに恋愛相談するなんて、無理じゃね?
嵐さん、たぶんオレが入学する前から先輩のこと、好きになってたんだろうな。
オレの知らない一年分、嵐さんは先輩のこと、知ってるわけで。
あー、一年のビハインドって、つれぇな……。

「ねえ、ちょっと休憩していこうか?」
「え? 何、アンタ疲れちゃったとか?」
「うーん、疲れたっていうか、もうちょっと話したいな、って思って。
あ、あそこの防波ブロック。あそこに座って、さ。」
「そういうお誘いなら大歓迎! 座っちゃいますか。」

少し高くなったブロックに、二人してよじ登って、並んで座る。
狭いてっぺんのスペースは肩が触れそうで触れない距離で。
それだけで脈が跳ね上がるなんてオレ、マジヤバイって。

「わぁ、やっぱり見晴らしいいね。」
「そっすね。」

時間はちょうど日暮れ時。
羽ヶ崎の海がオレンジに染まる時間。
シチュエーションは完璧。
ここでキスのひとつでもしたら、完っ璧に落とせるっていうのに、
そんな雰囲気に持ち込めそうな気がこれっぽっちもしない訳で。

「ねえ、部活、楽しい? 辛くない?」
「辛いってことはないっすよ。まあ、嵐さんのしごきはパネェっすけど、
それだけ自分に返ってきてる気がしますもん。」
「そう? 私たち、結構強引な勧誘したじゃない? 
だからさ、いつもは平気な顔してても本当は辛いんじゃないか、って
いつも気になってたから、一度、聞いてみたかったんだ。」
「楽しいっすよ。部活。アン……」
「あん?」
「アン……パンとかおごってくれるし。嵐さんが。」

おい、なんでそこで『アンタに会えるから』って言えないかなオレ。
甘い台詞なんて、オレの大得意分野だったはずじゃん?

「ふふ、嵐の食欲ってホントすごいよね! いっつも早弁してるし。
そのあとパンもいっぱい食べて。びっくりしちゃう。」
「あー、あればっかりは真似できないっすよ。」

ズキン、ってした。
先輩が、嵐、って口に出すたびいつも。
さっきだって、私たち、って言ったし。
オレってやっぱり蚊帳の外?って気になる。

そんなのは、嫌だ。
無理やりにでも侵入して、先輩を、奪って……。

「……ねえ?」
「えっ? あっ、何?」
「やっぱり考えごとしてるね。気になるな。」
「ん〜? 気になっちゃう? でも平気だから。」
「ぺーちゃん?」
「へっ?」

な、なんだよいきなりそんな呼び方。
この間まで『新名くん』だったじゃないか。
いや、すっごい嬉しいんだけどー……。
その破壊力、マジパネェし。

「な、何?」

そのとき、確かにオレは見た。
先輩の瞳の奥が、黒く輝くのを。
あれは……まるで……。

「我慢なんか、しなくていいんだよ。」

じっと見つめられて、動けねー。
完っ全に狙いつけられた小動物。
アレ?バンビって肉食獣だっけ?
そんな気分。

「いつでも、言ってきていいんだからね。」

意味を図りかねて、返事ができなかった。
それって、ガンガン攻めていいってこと?
わかんねー。わかんねーけど……。
確実に、ヤバイ、オレ。

「さ、そろそろ帰ろうか。暗くなってきたし。」
「……先、帰っててくれます?」
「えっ? なんで?」
「もう少し、海見てたいかなーって。」
「うーん、でも体冷やしちゃうし。帰ろうよ?」
「…………。」

察してください。立てない状況なんです、オレ。
ああ、立ち上がらせないで。
ただでさえ場所的に不安定なんだから、服とか引っぱっちゃ……!

「きゃっ!」

案の定足を滑らせて、腕の中に、落ちてきた先輩。
もう、ダメです。ごめんなさい。

「先輩……」

抱きしめて、触れ合わせた唇。
アレ、逃げないんだ。

そっか。
………………そっか。

「帰ろ。」

今度はオレの返事を聞かずに、テトラポットを降りた先輩。
こっちを振り返らないで、でも待っててくれるから、
まだちょっとヤバイ体だけど、だましだまし付いてく。

先輩は、オレの三歩前。
手も繋がないし、横にも並ばないけど、繋がってる感じ。
なんか、幸せ?

「ペーちゃん。」

ここで別れるっていう曲がり角まで来て、先輩はくるっと振り返った。

「なに?」
「明日も部活だから、ちゃんと来ること。」
「はーい。」
「返事は伸ばさない!」
「はい。わかってますって。」

今度、部活に来る理由を聞かれたら、ちゃんと言える。
『アンタに会えるから、オレは来るんだ』ってね。

ねぇ、肉食系のバンビちゃん、今度は、レッサーパンダのターンで、よろしく♡



Fin


 



初書きニーナ。
2010.8.27のニーナフェスにあわせて書いたのですが…。
当日開催中にアップするつもりが寝落ちしまして…。
このコメントを書いているのは祭りの後の朝だったりします。
うう、ごめんよニーナ。連日の寝不足に耐えられなかったんだ!

まだキャラが掴みきれてない感じで、申し訳ないです。
悩める青少年、って感じのニーナをイメージしていただけたら嬉しいです。
結局、バンビ最強じゃね?










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