fullmoon

今夜は満月。
心が騒ぐ。
自分を見失いそうになる。

(今夜彼女を部屋に招いたら、きっと・・・)


とのドライブ。「社会見学」という大儀名文を付けなくて良くなって久しい。
教師の立場で彼女を誘い出すことに抵抗があった以前と比べ、格段に環境が良いと言える。
何にも気兼ねすることなく、彼女との時間を楽しむことができる今が非常に嬉しい。
しかし、この環境も残念ながらベストではない。
私の中に、どうにもやりきれない思いが存在するからだ。

できれば未来永劫、この時間を持ちつづけたい、壊したくない、そんな思いが
彼女をこわれもののように扱わせる。正直、どうしてよいのかわからない。
彼女は私との時間を楽しい、と言ってはくれるが、その言葉が本心なのか、
それとも彼女の優しさから出た言葉なのか、常に不安が付きまとう。

幼少時からの友人は、「お前のやりたいようにやればいい、それが答えだ。
彼女もきっとそれを望んでいる」という全くもって漠然としたアドヴァイスをするのみで、
全く力にならない。
そして私は今日も、彼女をドライブに連れ出し、そして家へ送り届けるという
お決まりのコースをとろうとしている・・・。



時刻は午後7時。思いがけない渋滞にはまり、帰宅予定の時刻から大幅に遅れてしまった。
とうに日没は過ぎ、辺りは夜になってしまった。早く、戻らなければ。

(今夜は満月・・・)

「あ、きれいな月。見て、満月ですよ。」

彼女の声に思わず振り返りそうになる。危ない・・。

「ああ、そうだな。」
「ああ、そうだな、ってそれだけですか?」
「何か言わねばならないか?」
「ならない、ってことはないですけど・・・」
「では、月の満ち欠けと天体の運行について講義しよう。そもそも・・」
「あああ、そういうことじゃなくてですね・・・」
「ではなんだ?」
「うーん、月ってやっぱりロマンティックじゃないですか。
なんだか不思議なことが起こりそうな気がしませんか?
なんか、妖しい感じがする、って言うか」

(ギクリ)

「そうそう、満月の夜って言えば狼男とか。・・変身モノのホラーは好きじゃないんですか?」

(ギクリ)

「・・・黙ってないでなんとか言ってくださいよ。」
「・・・」
「零一さん? 零一さん! 先生!!!」
「あ、ああ。すまない。ちょっと考え事を・・・。何の話だったか?」
「もう。なんか今日の零一さん、おかしいですよ。」
「申し訳ない。どうも、体の調子が・・・」
「えっ?どこか具合悪いんですか?」
「そうではない。気にしなくてよろしい。」
「・・・変な零一さん。」

日が落ちて、体に満月の影響が出始めている。
早く、戻らなければ。

(心が騒ぐ・・・)

「さっきから、何黙ってるんですか?いつもだったらいろいろお話してくれるのに。」
「そう、だったか?」
「やっぱり変だ、今日の零一さん。本当に体の調子が悪いんじゃないんですか?」
「いや。大丈夫だ。ところで、今日、これから時間はあるか?」
「今日、ですか?もう、だいぶ遅いですけど・・・」
「何か予定があるのか?」
「いえ、予定はないです。まったく。でも・・・」
「でもなんだ?」
「いつも7時過ぎたら強制的に家に帰らされているのに、今日はどうしたのかな、と思って。」
「単なる思いつきだ。それで、時間はあるのかないのか?」
「あ。あります。大丈夫です。」
「よろしい。では、私の家に寄っていきなさい。」
「えっ?」
「なんだ?」
「いえ、だって今まで、行きたいってお願いしても絶対ダメだ、って言ってお家には入れてくれなかったのに。本当に今日は、なんか変です。」
「そんなことはない。それとも、まっすぐ家に帰るか?」
「いえ、お邪魔します!」


口が、勝手に動いた。
私の中の別の意思が、彼女を私の部屋に招く。私はそれを止められない。
彼女の嬉しそうな横顔だけがせめてもの救いだ。
しかし、取り返しの付かない事態になることだけは避けなければ・・・。


ほどなくして自宅へ到着した。
パーキングに車を滑りこませると、運転席を降り、助手席のドアを開けてやる。
少し緊張した面持ちの彼女が降りてくる。

「なんか、どきどきしちゃいます。」
「何も緊張することはない。ただの部屋だ。」
「それは、そうなんですけど。」
「・・・何を考えている?」
「い、いえ。何も・・・。」
「大丈夫だ。君を不安にさせるようなことは何もない。」

といいつつ私は、その言葉が単なる言い訳にしか過ぎないことに気付いていた。
私の中の別の意思は、どんどんその力を増している。
持ちこたえられるだろうか・・・。

(自分を見失いそうになる・・・)

部屋に彼女を招き入れると、彼女はキョロキョロと落ち着かない。

「どうした?」
「やっぱり、想像通りの部屋だな、と思って。すっきりしてて、機能的な感じ。」
「そうか。気に入ったか?」
「はい。素敵だと思います。」
「ありがとう。コーヒーを入れる。そこのソファーにかけていなさい。」
「あ、コーヒーなら私が。」
「いいんだ。かけていなさい。」
「はい。」

彼女と物理的な距離をとることだけが、今の私にできる最大限の努力だ。
私はできる限りの時間をかけてコーヒーをいれた。無駄な抵抗だとは知りながら。
そんな時間で、彼女を壊さずに済む方法を見つけられるはずもない。

コーヒーカップを手に、リビングに戻ると、彼女の姿がない。
カップをテーブルに置くと、視線をさまよわせる。
そして、気付く。

開け放たれた窓。
浮かび上がるシルエット。
彼女の声。

「零一さん、本当にきれいな満月ですよ。一緒に見ましょう?」

そして、彼女の肩越しに見える、月。

(しまった・・・)

急激に理性が失われていく。
何かが崩れていく。
自分ではない自分が完全に目を覚ます。


テラスに立つ彼女に歩み寄り、無言のまま抱きしめた。
自分の中に取り込もうとでもするように、きつく。
押さえていた衝動を埋めるように。

腕の中の彼女に告げる。

「すまない、こんなことをするつもりではなかった。しかし今日は・・・」
「いいんです。この日を待っていたから。」
「待っていた・・?」
「そう、ずっとこうしたかった・・・。」

腕を少し緩めると、私を見上げる彼女がいた。
たまらない愛しさと、壊したい衝動とがぶつかる。

唇を寄せる。
重なり合う一瞬前、彼女の瞳が赤く光った。

・・・赤く?

疑問が浮かんだときにはすでに体の力は抜け、意識は遠のいていった。
ただ、首筋の焼けるような痛みだけを残して・・・。



気がつくとそこは、自分の寝室だった。朝の日差しがまぶしい。

「夢、か・・?」
「夢じゃないですよ、零一さん。」

その声に慌てて起きあがると、隣にはどこから出したのか私のシャツを羽織ったが寝転んでいる。

「きっ、君・・・。私は、どうしたんだ・・?」
「大丈夫。零一さんが心配しているようなことは全然ありませんから。証拠に昨日の服のままでしょ?」

言われて自分の姿を確認すると、確かに昨日着ていたシャツとパンツのままだ。

「しわになっちゃうから、本当は脱がせてあげたかったんですけど、余計な心配させたくなかったから、そのままにしときました。」
「ぬ、脱がせ・・」
「本題はそこじゃないんですよ。昨日、何があったか覚えてないでしょう?」
「・・・そうだ。私はどうしたんだ?」
「零一さん、満月の夜になると、不思議な力を感じるでしょう?」
「な、何故それを?」
「わかるんですよ。同じ”ルナリスト”だから。」
「・・ルナリスト??」
「はい。月の人、ってことです。」
「な、なんだそれは・・・」

目覚めた直後であることもあいまって、私は混乱した。
彼女は何を言っている??

「私、入学式の日に零一さんに会った時から気付いてたんですよ。零一さんが私と同じだって。
でも、零一さん、自分がルナリストだって自覚してないみたいだったし、私のことにも気付いてない
みたいだったから、この人は運命の人じゃないのかな、ってあきらめてたんです。」
「運命?」
「そうです。ルナリストは生涯にたったひとり、運命の人に出会うんですよ。」
「それが、私だと・・・?」
「はい。高校3年間、すごくやきもきしたんですよ。でも結局、零一さんは私のことを好きになってくれたから、あとは儀式を済ませるだけ、ってことで。」
「儀式・・?」
「月の前で、永遠の愛を誓う、ってことです。見てください。」

といっては鏡を差し出した。

「首のところに、丸いあとがあるでしょう?それがしるしです。」

確かに、昨日痛みを感じた辺りにほぼ正円の赤いあとがある。

「これは・・・」
「キスマークじゃないですよ。死ぬまでとれません。」
「とれないのか?」
「はい。誓いのしるしですから。」
「しかし、これは多分に誤解を受けそうな・・・」
「大丈夫です。ルナリストにしか見えません。」
「そうか、良かった・・・。いや、そもそもルナリストとは何だ?」
「まあ、簡単に言えば月の影響を大きく受ける人、ってことですけど、それだけでもないんですよね。
そのうちわかってきますって。なんなら、うちに文献がありますから、読みますか?」
「ああ、そうしよう・・・。」

全く、理解の範疇を越えている。こんなことが果たして現実なのだろうか?
まだ、夢を見ているのではないだろうか・・・?

「あ、そうそう、来月の満月の日も、デートしてくださいね。」
「来月?」
「だって、私はまだ零一さんにしるしつけてもらってないんですもん。」

といっては首を見せる。確かになんのあともない。

「昨日、零一さんに付けてもらうつもりだったのに、気を失っちゃうから。びっくりしましたよ。
でも、しょうがないかな、と思って。まだ自覚してなかったわけだし、話によるとしるしを付けられてる
ときって、相当気持ちいいんだっていうから。どうでした?」
「・・・」

そうだ。首筋への痛みのほかに、しびれるような快感が体中を駆け巡っていたことを覚えている。
あれが、そうだったのか。

「コホン、。では来月は君の言う通りにしよう。しかし、あれは1度しか体験できないことなのか?」
「えっ?やだー。零一さん、なに言ってるんですか??」

みるみるうちにの頬が赤く染まる。それ以上に私も赤面していることがわかる。

「実は、良く覚えていない。分析するには資料が足りないのだ。」
「・・・そんなの、秘密ですっ!」

その反応からまた体験できるらしいことを悟る。自分が”ルナリスト”などという得体の知れないもので
あったことを複雑に感じていたが、いい面もあるのかもしれない・・・・。

「さて、朝食にするか。ライ麦パンでいいな?」

Fin


 



旅先で満月を見たので書き始めた話なんですけど、かなり意味不明ですね・・・。
"ルナリスト"が何たるかについても全く説明してないですし、内容もないし。
途中までめちゃくちゃ気を持たせて、最後に訳わからんオチ。
時差ボケってことで許されるかな??



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