Here you are.

彼女がはばたき学園を卒業して数ヶ月。
大学生になった彼女は、充実した日々を送っている。

学園で会えなくなった分、彼女は頻繁に私の部屋を訪れるようになったのだが、
(というか、私が「大学帰りに寄りなさい」と部屋に招いているといったほうが正しいか。)
そこでの話題の中心は、自然と大学生活の話になる。

「今日、階段教室で隣になった男子学生がですね・・・」
「サークルの先輩が飲み会に誘ってくれたんですが・・・」
「○×先生って教授の授業が、とっても面白くて・・・」

彼女は大学生活を、事細かに報告してくれる。
勉学に励んでいる彼女の様子は、とても好ましい。
好ましい、のだが。

面白くない。

非常に面白くないのだ。
私の下で過ごしていた3年間、私は彼女をずっと見守ってきた。
付かず離れず傍にいて、彼女を愛し、彼女もまた、私を愛してくれるようになった。
しかしその思いが通じた瞬間から、私達を囲む環境は大きく変わった。
いつも私のそばに、彼女がいるわけではないのだ。

彼女の周りには、当然のように多くの男性がいる。
魅力的な彼女だから、大学でもとても人気があるらしい。
彼女の話のそこここに出てくる男達。 それが、面白くない。

贅沢なことを言っているのはわかっている。
大人気ない感情であることも。
しかし私は、それほどまでに彼女を独占したいと思っているのだ。


        * * * * *


「先生?」
「ああ、すまない、聞いていなかった。」

今日も彼女は、私の部屋に来ている。
そしていつものように、今日一日の話をしてくれている。
しかし私は、身勝手な感情のため、いつも話半分に聞くことになってしまう。

「もう、先生ったら。お腹空きませんか?って言ったんですけど。」
「空腹?君の食欲にはいつも驚かされる。」
「だってもう、結構な時間ですよ。夕食にしませんか?」
「ふむ、そうだな。」
「じゃあ、私が何か作ります!」
「いや待て、私が作ろう。」
「えっ?先生が? 大丈夫なんですか?」
「任せなさい。」

どうしてそんなことを言い出したのか、自分でもよくわからない。
とにかく、他の誰にもできない何かを、彼女にしてやりたい、という気持ちがそうさせたのだ。

シャツの袖を捲り、キッチンに立つ。
「さて、何を作ろうか・・・。」

正直な話、料理などしたことがない。
しかしレシピさえあれば、完璧に再現できる自信がある。
レシピを見つけたのは、以下の3品だ。

インスタントラーメン。
手作りミートソースのスパゲティ。
ラグーのパッパルデッレ。


「ふむ、ここは思い切ってラグーのパッパルデッレを作るか。」

私は意気揚揚と調理を始めた。


        * * * * *


完成した品を、テーブルに運ぶ。

「え?まさかこれを先生が作ったんですか?」
「そうだ。」
「先生にこんな特技があるなんて、知りませんでした。
早速頂きます!」
「早く食べてみなさい。」



「………………。」
「味はどうだ?」
「……先生。」
「なんだ?」
「世の中には・・・」
「ん?」
「いえ、なんでもありません。」
それっきり、彼女は無言で食事を口に運び始めた。

「では、私も頂こう。」
「食べるんですか?」
「食事は食べるためにある。違うか?」
「いえ、その通りです。 」

見た目には完璧なラグーのパッパルデッレを口に運ぶ。
「!!!」

不味い。
とてつもなく。
よくもこんなものを食べられる、と彼女の皿を覗くと
もうほとんど空になりかけていた。

、もうよろしい。」
「えっ?」
「もう、食べなくてよろしい。これは食品とはとても呼べない。」
「でも・・・」
「わかっている。私の行為は報われない努力であった。」
「いえ、そうではなくて・・・」
「とにかく、これは廃棄処分に・・・」
だめ!!!

突然声を荒げた彼女に驚く。

「どうした?」
「捨てるなんてダメです!」
「しかし、これは・・・」
「大好きな人が、私のために作ってくれたものを捨てるなんて、私にはできません・・・。」
・・・。君は・・・。」

彼女の瞳からは、今にも涙が零れそうだ。

「すまない、泣かせるつもりでは・・・」
「確かに、これは究極に不味いです。」
「やはりそうだろう、では・・・」
「でも、先生の愛情、がこもっているでしょう?」
「愛情・・・」
「私、すごく嬉しいんです。先生がごはん作ってくれたこと。先生の特別に、やっとなれた気がして。」
「君は私の大切な人だと、いつも言っているだろう。」
「でも、味覚でそれを感じたのは、初めてなんですよ。五感の全てで、先生の愛情、感じていたいんです。」

五感の全てで、愛情を。
その言葉に、私の凝り固まっていた感情が、ふっとほぐれていく気がした。

そうだ。
目先の事柄ばかりに振り回されていてはいけないのだ。
もっと深く、自分の持てる全てを使って、彼女を愛したい。
いや、愛さなければ。

「とりあえず先生は、これから料理の特訓ですね。」
「君は・・・何を・・・?」
「食べるからには、美味しいもの食べたいじゃないですか。
せっかく先生がやる気になってくれたんだから、びしびし行きますよ!」
「いや・・・、私は料理はもう・・・。」
「諦めちゃダメです! 大丈夫、私が教えますから!」
「しかし・・・」
「問答無用!」
「・・・わかった。」


        * * * * *


斯くして私は、料理を学ぶことになった。
彼女の指導がいいのか、はたまた私に才覚があったのか、
めきめきと腕は上がり、彼女に”プロ並み”と称されるまでに実力をつけた。

「先生、ごはんください!」
「了解した。ちょうどリベンジの意味で、再度ラグーのパッパルデッレを作ろうと思っていたところだ。
少々待っていなさい。」



「………………。」
「味はどうだ?」
「……先生。」
「何だ?」
「素晴らしいです!先生の知性と繊細さがよくわかります!」
「そうか。」


「ありがとうございます、とっても美味しかったです。
先生には、いつも、驚かされてばかり・・・」
、私は・・・君に対して、当然のことをしたまでだ。何故なら・・・」
「料理は愛情、ですよね。」
「その通りだ。・・・そして」
「そして?」
「これも愛情表現の一つだ。」

そのまま彼女に口づける。
彼女の唇に残った、ラグーソースの味が広がってくる。
完璧だ。
完璧に、幸せだ。


        * * * * *


結局のところ、彼女と一緒に料理を始めたことで、部屋での会話の幅が広がり、
彼女の話に嫉妬するようなことはなくなっていった。
一つ問題があるとすれば、美味しいものを食べ過ぎて、彼女が体型を気にし始めたことか。
次は、共通の趣味としてスポーツを始めるべきかもしれない。
正直なところ運動は得意ではないが、マスターする自信はある。
全ては、愛情のなせる業、だからな。


Fin


 



勢いで氷室先生話も書いたよ!
全てはひむろったーのおかげ。

ひむろったーがくれるご飯が面白くてしょうがなくて、
こんなお話になっちゃったんだよ。
氷室先生は、やっぱ甘めがいいね。

先生の呼び方を変えられるようにしたかったんですが、
めんどくさくなって先生に固定しちゃいました。
変えたい人は脳内変換お願いします。

最後、なんかスポーツの話に続きそうになってますが、とりあえず予定なし。
だって、私はスポーツが・・・。

Special Thanks
ひむろったー http://adeos.littlestar.jp/01.html
台詞集 by gs23様 http://www20.atwiki.jp/gs23/

Novels Topへ








SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ