Honey Dew

とある日曜日。
デート帰りに寄り道した公園で、思いのほか長居してしまったせいで、帰宅時間に大幅に遅れてしまった。
玉緒はほぼ小走りで、彼女の手を引いて歩いていく。

「ごめん、こんなに遅くなるつもりはなかったんだけど…。」
「玉緒さん、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。さっき、少し遅くなるって電話もしましたし。」
「良くないよ。君が僕のせいで親御さんに怒られたりしたら僕は…。
それにこれは僕自身の信用問題でもあるんだ。将来…」
「だから大丈夫ですって。玉緒さん、うちの両親に十分な信用得てますから。
特に父はものすごく喜んでいるんですよ。私一人っ子でしょう?
父はずっと男の子が欲しかったらしくて。『優秀な息子ができそうだ』って、最近の口癖なんです。
少し気が早すぎると思うんですけどね。」
「そ、そうなの?」
彼女の父親に存在を認められているのは嬉しい。嬉しいが…。

「だけど、やっぱり急がないと…。」
そう言って更に歩く速度を上げようとすると、繋いだ手をぎゅっと握りしめられた。

「どうしたの?」
「玉緒さん…門限よりも今は、私の事、考えてくれませんか?」

じっと見上げられる。
瞳の中に小さな夜空と、自分が映っている。
こんな綺麗な視線に抗うことなんて、できやしない。

「うん…じゃあ、少しだけ、ゆっくり歩こうか。」
「はい。」

こぼれた笑顔。
自分だけに向けられた、笑顔。
これを独り占めしたいがために、苦しくて泣きそうな日々も過ごした。
でも今は想いの報われた日々の中にいる。

「綺麗な月。」
彼女に言われ、空を見上げると、東の低い空に半月が輝いている。
「本当だ。気付かなかったな。」
「なんだか、メロンみたい。」
そう言って彼女はとても可笑しそうに笑った。
「そんなに、面白い?」
「思い出したんです。」
「何を?」
「放課後、喫茶店に寄り道したとき、玉緒さんの好き嫌いを聞いたことがあったでしょう?」
「うん。覚えてる。」
「生ハムの乗ったメロンが理解できないって、真剣に考えてる玉緒さんが、おかしかったなぁって。」
「だって、わざわざ一緒にする理由がわからないよ。」
「ふふ、そうやって、何でも真っ直ぐ向かい合う玉緒さんが好きだなぁ、ってその時思ったから。」
「…………。」
「あれ以来、メロンを見る度に、玉緒さんを思い出してたんですよ。
今日からは、月を見ても玉緒さんになりそうですけど。……玉緒さん?」
「何?」
「こんなに、私の毎日は玉緒さんでいっぱいなんです。だから…だから、ずっと一緒にいて下さいね。」

返事の代わりに、彼女をきつく抱きしめる。
放すわけ、ないじゃないか。
君はもう、全部僕のもの。
そして僕は君の。


唇を放すと、玉緒は言った。
「好きだよ。
月が輝いている限り。
この世界がある限り、
僕は君だけを、愛してる。」

月の雫の降り注ぐ夜。
それは新たな誓い。

「ずっと君のそばにいるよ」


Fin.


 



主催した「はばたき学園生徒会臨時総会」に投下したものです。
つーか主催なのに当日に慌てて書いたとか…。

ほんのり幸せな玉バンが書きたかったんです。
独占欲の塊でいて欲しいんだ、玉緒さんには。

えっと、注意していただきたいのは、門限ぎりぎりになった理由です。はい。


Novels Topへ








SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ