補習授業


学園のメインイベントとも言える期末テストが先日終了し、今日からは補習授業である。
教師として、補習対象者を出すことは本来不名誉なことであるのだが、私はこれが案外
楽しみである。普段成果の上がらない生徒を、徹底的に鍛えることができるこの時間は、
教師を天職とする私にとって、この上ない喜びなのだ。

補習の行われる教室へ入ると、対象者はすでに全員着席していた。大変よろしい。
私は昨晩練りに練った課題を配布すると、こう告げた。

「これは、先日のテストで誤答率が高かった問題から順に応用問題を並べてある。
全てできたものから帰ってよろしい。私はここに待機しているので質問があればいつでも来なさい。」

生徒たちはそれぞれ問題を解くため紙に向かい、鉛筆が走る音が聞こえだした。
しかし1名、動くことなく私を凝視している生徒がいることに気付いた。

姫城まどか。

着崩した制服を何度注意しても直さない、問題児のひとりだ。低迷する成績の中、
いつも1教科だけ高成績を収める点も、私の気になるところではある・・・。

「姫城、早く始めなさい。いつまでも帰れないぞ。」
「なんでこんな奴がええんやろ?」
「何?」
「あいつ、オレが補習や、って言ったら「いいなあ」って言いよんねん。
「代わってあげたい」やて。補習なんて好きな奴居らんで。あんたがいるからに決まっとる。」
「何を無駄口叩いているんだ。早く始めなさい。」
「・・冷たくて、厳しくて、陰険な奴にしか思われへん・・。」
「いいかげんにしなさい。課題を増やされたいのか?」
「なんでオレやないんや。オレやったらなんぼでも優しくしてやるし、いろんなとこ連れてって、
飽きさせたりせえへん。誰よりもあいつを大切にしてやるのに・・・。」
「黙りなさい、他の者の邪魔になる。独り言を言うなら補習が終わってからにしなさい。」
「黙らへんよ。あんたに言うてんねん。」
「・・・補習に関する質問には思えないが?」
「大事なことや。少なくともオレにとっては。」
「私には話の内容がさっぱり見えない。」
「とんでもないボケやな。突っ込む気も起こらへん。」
「いったい何の話だ・・?」
「わからんでもええ。聞いとけ。
ええか。いまは、あんたにかなわんかも知れんけど、いつか絶対見返してやる。
身長は、まだまだ伸びる。あいつが高いのがええなら2mでも3mでもなってやる。
学歴は正直追い越されへんけど、オレはそんなの関係ない世界で勝負する。
いつか、自分の夢かなえて、あんたの収入なんか軽く越えて、あいつの前に現れる。
今オレを選ばんで損した、ってあいつに思わせるような男になる。覚悟しとけや。」
「・・・夢を語るのはけっこうだが、君の当面の課題は目の前のプリントだ。早くやりなさい。」

私は丸めたテキストで、姫城の頭を軽くはたいた。
姫城は恨めしそうな視線を私に向けたが、それきり黙って課題に向かい始めた。
私と姫城のやり取りを興味深そうに横目で見ていた他の生徒達も自分の課題に戻る。
補習の教室はやっと静寂を取り戻した。

彼が何を言わんとしているか、最初からわかっていた。

の事だ。

彼女が学内の憧れの的であることは知っている。また、最近、彼女の思い人が
私である、という噂が流れていることも私は掴んでいる。そのために最近男子生徒から
以前にも増して挑戦的な視線を受けている。

その噂の真偽のほどを私は知らない。確かめようとも思わない。いや、正確に言えば
確かめることができない。
もちろん教師としての立場が、確かめることのできない理由のひとつだ。
教師が、生徒の噂に首を突っ込む、しかも自分が関わる恋愛の噂に携わるなど、
あってはならない。しかし、もっと大きな理由がある。

怖いのだ。その噂が嘘であることが。

私の、彼女への思いは日に日に募っている。もう、錯覚ではないことを認めなくては
ならないレベルだ。しかし、今の私ではその思いを彼女に伝えることはできない。
彼女が私の生徒でなくなる日、卒業のその日まで、私は胸のうちにこの思いを
秘めておかなければならないのだ。それは楽な日々ではない。
しかし、その前にこの思いを砕かれることはもっと辛い。だから私は、噂の真偽を
確かめることができないのだ。

また、積極的に噂を打ち消すこともしない。この噂があることで、彼女に言い寄る人間が、
ひとりでもいなくなれば、などと虫の良いことを考えているからだ。私がこんなに利己的な
人間であるとは、私自身も知らなかった。彼女への、この思いに気付くまでは・・・。

今の私にできることはただひとつ。噂が真実であることを祈ることだけだ。
正月に引いた大吉の効力は、まだ有効だろうか・・・?


Fin


 



VSモード第2弾、姫城まどかヴァージョンです。短い、ですね。すみません。
あんまり込み入った会話をさせられなかったのは私の能力の限界なのです・・・。
でも、こうやって一方的にぶちまけちゃったまどか、って私は個人的にいいかなと思っております。
先生の独白部分はもうちょっと語らせても良かったかな? あっさりしすぎたかも。



Novels Topへ










SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ