はばたき耳袋



さんの体験談


あれは、高校3年の夏のことでした。

夜中に、ふと寝苦しさを覚えた私は、目を覚ましました。
最初はもう何日も続いている熱帯夜のせいだろうと思ったのですが
手足の先から染み込んでくるような寒気に、何かが違う、と感じました。

枕もとに何かの気配を感じ、そっと視線を向けると、
そこには黒い人影が立っていました。背の高い、すらりとした影です。
その瞬間、私の体は金縛りになりました。目を閉じることさえもできません。

私に背を向けていた人影は、ゆっくりとこちらを振り返りました。
なんとそれは、私の担任のH先生だったのです。
厳しいけれど、生徒思いで、尊敬に値する先生。そして私の憧れの人・・・。
その先生が何故、こんな状況でここにいるのか全く理解できませんでした。

先生は、私の視線に気付くと、こう言いました。

「私が怖いか・・・」

(いつもは怖くないですけど、今は怖いです!!!!)

声を出せない私は、心の中でこう叫びました。
先生は寂しそうな表情でこう続けました。

「君に怖がられているのはわかっている。本心では、君に優しくしたいんだ。
しかし、教師としてそれをするわけには行かない。一人の生徒に入れ込むことなど
完全な教師としてあってはならないことなのだ。君に偏らないように、あえて君に
厳しく当たっているのかもしれない・・・。許して欲しい・・・。」

(・・・先生・・・)

「全ては裏腹なのだ。君を思えば思うほど、私は君に厳しくしてしまう・・・。
注意をすること以外に、君に声をかける手段を知らない。それしかできないんだ。
このままでは君が私を嫌ってしまうのではないか、とわかってはいても・・・。」

普段学校では聞いたことのない、自信のない声でした。
あのH先生が、こんなに弱気で、切なそうな顔を見せるなんて・・・。
私は胸を締め付けられるような思いでした。

「お願いだ、私を嫌わないでくれ。私の世界から、君を失いたくない。
好きになってくれ、とは言わない。今までどおり、私の目の届く範囲で、
君の姿を見せてほしい・・・。」

(私は、先生を嫌ったりしません! 私は先生のこと・・・好きですから)

「答えて、くれないのだな・・・。」

先生にはどうやら私の心の声が聞こえていないようでした。
必死で声を出そうとしてみましたが、金縛りは全く解ける様子がありません。
この状況に対する恐怖と、先生に伝えたい思いとがぐちゃぐちゃに交じり合っていました。

「ならば、最後に・・・」

そういうと、先生の姿はみるみるうちに消えていってしまいました。

(最後に、なんだったんだろう・・・)

姿が見えなくなってほっとした私は、枕もとに固定されていた視線を、
ゆっくりと天井のほうへ移しました。
すると・・・

(キャーーーーーーーーーっ!!!!)

私が見たのは、私の顔前10cmのところにある先生の顔でした。
消えたと思った先生は、いつのまにか私の上にのしかかっていたのでした。
私はそれっきり気を失ってしまい、あとのことは全く覚えていません。


再び意識を取り戻したのは、翌朝のことでした。
唇は妙にはれぼったく、パジャマははだけ、体中に赤い斑点ができていました。

その翌週、H先生に遊園地に社会見学に連れて行かれた私が再び失神したのは言うまでもありません。



あれは、なんだったのか、今でもわかりません。
高校を卒業した私とH先生は今は恋人同士です。
でも、あのことだけはどうしても確かめられないでいます・・・。





 



夏なので、こんなの書いてみました。だからなんだ?という感じですよね。別に怖くないでしょ?
でも、想像する映像によってはドアップの場面は怖いかも(笑)この先生は何者なのか、という
ご質問は基本的にお受けできませんが、生霊、幽体離脱、プロトタイプ、不法侵入等が考えられます。
面白い新説があったら教えてください(笑)

あおぎり様がこのSSのイメージでイラストを書いてくださいました。ありがとうございます。
文中でも"びっくり仕様"でご紹介させて頂いておりますが、こちらでゆっくりご鑑賞ください。え?わからない??
素敵なイラストを見に行く。


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