BATTLE! 日曜日、午後3時。 零一さんの家。 来週からはばたき学園では期末テストがある。 零一さんはそのテスト問題作りに夢中。 時々ニヤニヤ笑ったりして、本当に楽しそう。 あとで私に解かせるつもりなんだ。わかってる。 今日はデートできないから、って家に招いてくれた、 そのことは嬉しいんだけど、全く相手にされないで もう約2時間。背中を見つめているのにも飽きてきた。 邪魔しちゃいけないって、大人しくしてるけど、 持ってきた本はさっき読み終えちゃったし、 寝ちゃうのも申し訳ないし、あくびを噛み殺すのがやっと。 零一さんのテスト問題作りは、まだ当分終わりそうにない。 私はソファーのクッションを抱きしめ、心の中で零一さんの背中に語りかける。 (私とテスト、どっちが大事なの?) もちろん、こんなこと絶対口に出しては言えない。 零一さんのことだから、きっと困ったような顔をして、私が大事だと言ってくれるだろう。 だけど、零一さんが教師っていう仕事を愛してること、誰よりわかってるから、 つまらないわがままで余計なことを考えさせたくない。 仕事と私を比べるなんて、意味のないこと、無駄なことだよね・・・。 でも今は、ちょっとだけわがままを言ってみたい。 少しだけでいい、仕事の手を休めて、私の方を見て欲しい。 そっと眼を細めて、笑って欲しい。 それだけで、いい。 (おーい、振り返れっ!) 動かない零一さんの背中に向かって、クッションを投げつける真似をした つもりだった・・ 振り上げたクッションはするりと私の手を離れ、きれいな放物線を描いて、零一さんの後頭部に 「ボスッ」 鈍い音を立てて命中した。 「・・・」 立ち昇る怒りのオーラに、怖くて声も出ない。 眼をぎゅっとつぶって、怒られるのを覚悟していると 「ボスッ」 私の顔面にクッションが直撃した。 恐る恐る眼を開けてみると、腕組みして私を見つめている零一さんがいた。 (やっぱり怒ってる・・?) 「私に挑戦したいなら、きちんと戦線布告してからにしなさい。 背後から襲うのは卑怯だ。」 「は?」 「枕投げ、だろう?」 そういうと零一さんは部屋を出ていく。 取り残された私はひとりパニックだった。 (ま、枕投げって言った? 何? どういうこと?) 部屋に戻ってきた零一さんは両手いっぱいに枕やクッションを抱えていた。 「全部で7個、か。少し少ないが1対1の勝負ならこれで足りるだろう。」 「あ、あの・・・」 「このテーブルが境界線だ。制限時間は1分。時間前に相手の陣地に 全ての枕を投げ入れても勝負あり。いいな。」 「ちょ、ちょっと・・・」 「待ったなしだ。開始!」 言うが早いか零一さんは私めがけてクッションを投げつけてきた。 突然の状況に混乱しつつ、私も応戦する。 「吹奏楽部OG奥義、眠りの調べっ!」 零一さんは寸前でかわす。さすが顧問、見切られている・・・。 「数学教師奥義!微積分クラッシュ!」 テスト用紙が降ってきて、解けるまで攻撃を再開できない究極技。 しかも難易度はスーパーS。高校を卒業して数学から離れてしまった今の私に解けるわけがない。 あっという間に7個の枕とクッションは私の陣地に投げ込まれてしまった。 「勝負あり。私の勝ちだな。」 「参りました・・・。」 「気はすんだか?」 「えっ?」 「やりたかったのだろう、枕投げが。」 「そんなことは・・・」 「違うのか?」 「いえ、やりたかったです。高2の頃から。」 「そうか。念願かなった、というわけだな。」 「はい。」 「私も、だ。」 「えっ??」 零一さんは照れ臭そうに笑った。 この人は、時々、たまらなくかわいい。そんなところが大好きなんだ。 「さて、この部屋をどうするかな。」 いつもは一分の隙もなく片付いている零一さんの部屋が、嵐のあとのようにめちゃめちゃ。 そりゃそうだよね・・・。 「ああ、片付け、大変ですね・・・」 「当然、手伝うんだろうな。二人でやればそれほどかからないだろう。」 「はいっ。」 「片付けが終わったら、私の仕事も手伝ってもらう。大部遅れてしまった・・・。」 「わかりました。頑張ります。」 なんだかんだ言って、私、けっこう幸せみたいです。 Fin