A New Wind


「紺野。」
「氷室先生。」
「新入生歓迎挨拶の原稿はできているか。」
「はい、これです。」
「フム、見せてみなさい。」

春休みのはばたき学園。
玉緒は、6日後に控えた入学式準備のために登校していた。

廊下に立ち止まり、顔をつき合せている長身の2人の脇を
部活のため登校している生徒達が会釈をしながらすれ違っていく。

(相当、威圧感があるんだろうな・・・)

すれ違う生徒の表情を見ながら、玉緒は思う。
大方は、眉間に皺を寄せつつ原稿を読んでいる氷室に対するものなのだろうが、
生徒会長という役職に就いた自分にも、皆ある種の近寄りがたさを感じているのだろう。

「紺野。」
「はい。」
「大体は良くできていると思う。」
「大体、ですか?」
「これをそのまま利用してもおそらく問題はない。しかし・・・」
「しかし?」
「しかし、多少ユーモアに欠けるのではないか?」
「えっ?」

ユーモア?!
この真面目が服を着て歩いていると称される堅物数学教師が、ユーモアを要求している?

「・・・どういうことでしょうか?」
「フム、入学式における新入生というものは、概して極度の緊張状態にある。」
「そうでしょうね。」
「そこに堅苦しい挨拶を聞かされても、彼らの記憶には残らない。」
「はぁ・・・」
「そこでだ。印象的なユーモアを交えて話せば、彼らの記憶に、君の挨拶がきっと刻まれる。」
「・・・具体的には、どのようにすればいいのでしょうか?」

そう言われて、氷室は暫し考え込む姿勢を見せた。
そして何事かを思い出したかのように、口を開く。


「そうだな・・・例えば、新入生の最前列に、スカーフ、いや、リボンタイが曲がった女生徒がいたとする。」
「それで?」
「君は壇上から、『そこの君、リボンタイが曲がっている。直しなさい』と言うんだ。」
「・・・・・・それ、ユーモアなんでしょうか?」
「コホン、ユーモアだ。使い方によっては更なる緊張を呼ぶケースも考えられるが、そこは君の力量次第だ。」
「はあ・・・力量ですか。僕にはちょっと・・・。それにそれは、その生徒にとってトラウマになるのでは?」
「いや、そうはならない。私が保証する。」
「そうですか・・・検討してみます。」
「よろしい。修正稿が書けたらまた持ってきなさい。」
「わかりました・・・。」

さっと踵を返した氷室は、規則正しい靴音を立てて去っていった。



(壇上から『タイが曲がってる』なんて、そんなこと・・・言えるわけないじゃないか・・・)

どうやって氷室を納得させられる修正ができるかを考えながら、玉緒は屋上へ続くドアを開いた。
目の前に、はばたき市の全景が広がっている。


(風が・・・気持ちいいな)


海岸線に沿って走る、はばたき線の線路を視線で辿る。
緩やかなカーブを描くその上に、新型車両を見つけて、少しだけ嬉しくなった。


(まだ、乗れてないんだよな。ここのところ忙しくて、鉄道どころじゃなかったから・・・)


真新しい銀色のボディが、光を乱反射している。
その姿を眺めながら、ふと、思いついた。


(そうか、新入生なんだな、あの車両も。)


鉄道に関する趣味は、偏見を呼ぶかもしれないとあまりオープンにしてこなかった。
しかし近寄りがたい生徒会長のイメージを崩すには、いい材料なのかもしれない。


「ご乗車、ありがとうございます。この電車は、はばたき学園線、薔薇色の高校生活行きでございます。
走行中、揺れることがございますので、先生、先輩、同級生にしっかりお掴まりの上、
悔いの残らぬよう、終点までご乗車ください。

停車駅は勉強、芸術、運動、流行、おしゃれ、部活、友情、そして恋愛です。
停車時間は十分にございますので、バランスを考えながらお楽しみください。

それでは、発車いたしま〜す。」


車掌の車内アナウンスの真似をしながら一人、こう呟いてみて、玉緒は吹き出した。


(これ、氷室先生に提出したら、どんな顔するだろう。)

理解しがたい、という表情を浮かべる氷室を想像して、更に可笑しくなる。
しかし、ユーモアと言い出したのは彼なのだから、と玉緒はこれで行くことに決めた。


(壇上からの声かけは、アドリブとして候補に入れておきます、って言おう。)


普段ユーモアなど意に介さない風な氷室が出してくれた案だ。
それに・・・この案を話しているときの氷室は、いつもとは少し違って見えた。


(氷室先生の経験談?・・・まさかね)


ふと、親友とその姉の顔がちらつく。


(あいつ、しばらく会ってないけど、元気かな。あとで、メールでもしてみるか。)


親友の姉の消息も、尋ねてみよう。
そういえば先日、姉の珠美が彼女の結婚式に行くといっていたような・・・。


「さて、そろそろ戻ろう。さっきの、ちゃんと原稿に書かないといけないしね。」


そのとき、強い風が吹いた。
その勢いに、思わず足が2〜3歩前に進む。

追い風。
誰かに背中を押されたような感覚。


「そうだな。僕も、新しい行き先を目指さなくちゃ。またここに、風を切りに来よう・・・・・・。」





玉緒はまだ知らない。
6日後に、彼の運命を変える出会いがあることを。
そして図らずも、切り捨てたはずの氷室のアドリブを使うことになることも。


リボンをつけた小鹿は、すぐそこに。


Fin.


 



GS3初書きです!発売6日前なのに滾りすぎですwww
3rd発売カウントダウンに参加するために書いてみました。

ヒムロッチには助けていただきました!やっぱり私の話には、貴方がいないと進みません。
いつまでも私の神ポジションでいてくださいね。

3rdですが、やっぱり私は玉緒先輩狙いで行こうと思います。
設楽先輩も大好きになりそうですけどね。
あまりに先輩コンビしか見えなくて、私の世界では王子と青春コンビ涙目です。
でもできればせめて一人1回ずつぐらいはクリアしたいよね・・・。いつもフルコンプできないから・・・。

そんな願いを込めて、3rdSSも頑張ってみようと思います。

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