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reach for･･･ 「……帰る。」 三人で出かけた、帰り道。 早々に盛り上がり始めた紺野との姿を見ているのに耐えられず、 聖司はその場から逃げるように立ち去った。 （あいつら･･･俺の目の前でいちゃいちゃいちゃいちゃしやがって……。） 収まらない気持ちが、声にならない言葉になる。 （紺野……だいたいあいつ、デレデレしすぎなんだ。） 誰が見てもわかる、好きで好きでたまらないという表情。 あんな風に素直に態度に出せたら･･･そう思わないでもない。 しかし自分には到底できない芸当なんだと、聖司は開き直る。 （それにあいつだって、気安く触りすぎなんだ。） の、少し過剰と言えなくもないスキンシップ。 人目があろうとなかろうと、誰が隣にいても構わず、そこかしこに手を伸ばす。 (今日は･･･紺野ばっかり……。） わかっている。 自分が何にイラついているのかなんて。 （本当は……。） 本当は。 （俺にだって……触れて欲しかったんだ……。） ＊ ＊ ＊ 帰宅の挨拶もそこそこに、聖司は自室に駆け込んだ。 勢いをつけてベッドに倒れこむ。 上質なスプリングが心地良く体を受け止めてくれた。 （あいつら、どうしたかな……。） 自分から逃げ出してきたのに、気になってたまらない。 こんなことなら場所を代われと言われても代わってやらなきゃよかったとか、 最後まで居座って邪魔してやればよかったとか、しても始まらない後悔ばかりが浮かぶ。 （好きなんだよ、あいつが。） 認めたくなんてなかった。 最初はただ、鬱陶しいだけだった。 むしろ紺野の女になるんだろ、ぐらいに考えていた。 それなのに。 気付いてしまったんだ。 あいつが俺に触れるたび、凝り固まった気持ちがほぐれていったことに。 あいつが俺に触れるたび、どこかに優しい気持ちが芽生えたことに。 あいつが俺に触れるたび、胸が締め付けられていくことに。 「……」 名前を口にするだけで、体が熱くなる。 その熱が、抗えない塊となって、聖司を支配し始める。 「…………」 もどかしい動きでベルトのバックルを外す。 窮屈な場所から早く開放して欲しいとばかりに波打つそれに、そっと手を触れる。 自分の手のひらとの、あまりの温度差に思わず声が漏れる。 「く･･･はぁ･･･。」 緩く握りこむと、先端に軽く刺激を与えてやる。 とろりとした液体が溢れ出し、聖司の長い指を濡らす。 （あいつの･･･手なら･･･） 聖司より、一回り小さな手。 骨ばった自分の手とは違う、やわらかな指先。 その指先の感触を辿る。 腕に絡ませた、その指先。 肩に触れた、その指先。 頬をつついた、その指先。 髪を掠めた、その指先。 首筋を辿った、その指先。 唇をなぞった、その指先。 思い出せる限りの感覚で、自分を追い上げていく。 いつのまにか手には力がこもり、動きが加速する。 「･･･はぁ･･･はぁ･･･っ…………」 先走りがとめどなく溢れ出し、くちゅくちゅと音を立て始める。 音の刺激は、更に聖司を追い立てる。 「なんで･･･俺は･･･一人で･･････！」 一人の部屋に、リズミカルに響く水音。 それとは逆に、乱れてゆく吐息。 耐えがたい不協和音を奏でるようなこの行為に、今は溺れている。 手の届かない愛しいものの代わりには、決してならないと知っているのに。 「っ……いつかっ……おまえをっ……！」 報われない想いであっていいはずがない。 このままでは終われない。 だけど･･･もう遅いのかもしれない･･･。 「俺のっ……ものにっ……！」 限界が近づき、頭の中が白く霞んでゆく。 霞の中に見えるのは、愛しい人の姿だけ･･･。 「！！･･･うっ･･･はぁああ･･･っっ！！！」 勢い良く放たれた白濁が、まっさらなシーツを汚す。 何度も、何度も、律動するたびに広がる染みが、胸をえぐる。 （こんなこと･･･したって･･･おまえは･･･） 聖司の頬を、一筋の涙が伝い、シーツにもうひとつ、小さな染みをつけた。 Fin |
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