Rose Queen 昼休み。 地面いっぱいにチェス版を描き、玉緒と聖司はゲームに熱中していた。 ・ ・ ・ 「ナイトをe1へ。クイーンを取る。」 「おい、設楽、そんなところへ動かしたら僕のビショップでチェックメイトだよ。いいの?」 「・・・構わない。キングなんて・・・どうでもいい。」 搾り出すような声のトーンで、聖司は呟く。 「えっ?」 「勝敗なんてどうでもいい。俺が欲しいのはクイーンだ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 聖司が言わんとすることを察した玉緒の表情から笑みが消えた。 「・・・譲れないよ。」 「・・・・・・・・・。」 「こればっかりは、どうしてもね。」 「・・・・・・・・・。」 「それに、僕は勝負も投げない。」 「・・・・・・なに?」 「最後まで、クイーンを守りきった上で、勝負にも勝つ。 これは宣戦布告と取ってくれていい。」 「・・・・・・そうか。わかった。」 「紺野せんぱーい! 設楽せんぱーい!」 2人の重苦しい沈黙に割って入ったのは、底抜けに明るい声と弾むような足音だった。 その元気さゆえに、周囲から"バンビ"と呼ばれている少女・・・。 「良かったー、見つかって。探してたんです。・・・あれ? どうかしたんですか? 2人とも怖い顔して。」 「いや、なんでもないよ。どうしたの?」 「実は、お2人に見せたいものがあって!」 「見せたいもの? なにかな?」 「これですっ!」 そう言って彼女が取り出したのは、淡いピンク色のチェス駒だった。 「クイーンの駒だね。ピンクなんて珍しい。これ、どうしたの?」 「あの、私、今先輩方にチェスを教えてもらってるじゃないですか。それで、どうしても自分のチェスセット、欲しくなって。」 「わざわざ買いに行ったの?」 「いえ、このあいだみよちゃん・・・宇賀神さんにパワーストーンのお店に連れて行ってもらったんですけど、 そこにたまたまこのチェスセットが置いてあったんです。ローズクオーツのピンクの駒と、 クリスタルクオーツの透明な駒のセットで、私、一目惚れしちゃって。」 「そうなんだ。でもこういうのって、結構高いんじゃない?」 「そうなんです。高くて手がでないから、見るだけにしよう、って思ってたんですけど・・・。」 「・・・けど?」 「あんまり私が熱心に見てたからでしょうか、お店の方が、『欲しいなら安くしてあげる』って言ってくれて。 なんと50リッチを半額にしてくれたんですよ! 服を買おうと思って持ってたお金、つぎ込んじゃいました!」 「・・・その店員、男だろ?」 「あ、はい、オーナーさんで、すごく感じのいいおじ様でしたよ。」 「・・・・・・・・・。」 (エロ親父め・・・) 心の中で聖司は悪態をつく。 大方彼女がかわいいから、まけてやる気になったのだろう。 そうでなければ、賞味期限も流行りもないチェスセットなど、安売りする必要がないからだ。 「私、このピンクのクイーンが一番のお気に入りなんです。かわいいでしょ?」 「・・・駒にかわいいもかわいくないもあるか。」 「身もふたもない言い方だなぁ、設楽。 僕は、かわいいと思うよ。」 「ですよねー。 今度、これで先輩方とゲームしたいなぁ。」 「・・・・・・じゃあそのクイーン、真っ先に取ってやるよ。」 「もう、設楽先輩、意地悪ばっかり。 紺野先輩は違いますよね?」 「どうかな? 必要とあれば取るよ。 ひとつの駒をあんまり大事にしてると、守りが崩れるから気をつけないと。」 「うぅ・・・、紺野先輩まで・・・。でもそっかぁ。先輩方とはレベルが違いすぎてあっという間に負けそう・・・。」 「当たり前だ。お前みたいな超初心者、相手にならない。」 「・・・・・・やっぱり意地悪だ。」 拗ねた表情を浮かべる彼女の頭を、軽く小突く。 ついこのあいだまで無意識にしていたこの行為も、今は意味合いを異にしている。 髪に触れた指先が、妙に熱い・・・。 「・・・まあでもせっかく買ったので、使ってみたいんです。今度フルセットで持ってきてもいいですか?」 「うーん、フルセットを持ってくるのは生徒会長としてあまり感心しないな。第一かさばるだろうし。 そうだ、今度僕の家に来てやる、っていうのはどう? その方が落ち着くんじゃないかな。」 「・・・紺野の部屋は狭いだろ。俺の家の方がいい。」 「逆に広くて落ち着かないよ。」 「なんだと?」 「ちょっと、何言い争って・・・」 キーンコーンカーンコーン ちょうどそのとき、昼休み終了を告げるベルが鳴り響いた。 「おっと、予鈴だね。もう戻らないと。 君、次の授業は何?」 「次ですか?・・・・・・あっ、いけない、体育だ! 戻って着替えなくちゃ!」 「バカ、急げ。お前ただでさえとろいんだから、のんびりしてたら遅刻確実だ。」 「は、はい!! じゃあ、先輩たち、また!」 一心不乱に駆けて行く背中を見送りながら、2人は同時に溜息をついた。 「・・・どうやら、狙うべきはお前の白のクイーンじゃなくて、あのクイーンのようだな。ローズクイーン。」 「そうだね。ま、どっちにしても譲らないけど。」 「・・・・・・。」 ローズクイーン。 はばたき学園一の女生徒を示す称号。 今年はおそらく・・・・・・彼女だ。 「設楽、クイーンってさ・・・。」 「なんだ?」 「縦横斜め、どの方向にも好きなだけ動けるんだよ。」 「そんなことは知ってる。だから?」 「・・・・・・ぼやぼやしてると、全然違うところに行っちゃうかもしれない、ってこと。」 ローズクイーンははばたき学園男子生徒の全員を魅了する。 彼女に狙いをつける男子が激増することだろう・・・。 「負けられない、だろ?・・・まずは2人で、守りを固めるのもいいかもしれない。」 「・・・・・・そうだな。」 2人は足並みを揃えて歩き出す。 午後の教室へと向かって。 そして、自らの望む結末を求めて。 Fin |
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