彼の背中

ステンドグラスを通して、色とりどりの光が降ってくる。
幻想的な瞬間。

彼は、その光の中に、凛として立っている。
その表情は、逆光のせいで定かではないが、
今まで見たどんな彼の表情より優しく、幸せそうなのがわかる。

彼が待つのは、ただ1人の女性。
無色透明だった彼の世界に、彩りを与えた人。
そう、今まさに彼がいる風景のように。


音楽とともに、扉が開く。



雲の上を歩くかのように軽やかな足取りで、彼女はヴァージンロードを歩いてくる。
彼女を包む、真っ白なドレス。

緊張気味の父親の隣で、ベールの向こうの彼女の唇は
穏やかな微笑をたたえている。

「・・・綺麗な人だな」

呆けたように見つめる格の側を、彼女が通るとき、ほんのりと花の香りがした。
彼女が手にした、白いバラのブーケ。

「花言葉は確か・・・尊敬」

彼女は彼の元教え子。
真面目が服を着て歩いているような彼が、まさか自分の教え子と結ばれるとは
親族の誰も予想だにしていなかった。

普通なら反対の声の1つもあがりそうなものだが、
あの彼が選んだ相手ならば、とみなが諸手を上げて賛成したのだ。
彼は、そういう人物なのだ。


格は、この従兄弟にずっと憧れを抱いてきた。
彼のように頭が良くて、彼のように洗練されて、彼のように慕われて、彼のように正しくて・・・

しかし現実は、そんなに上手くはいかない。
どんなに自分が正しいと信じた道を進んでも、周りには煙たがられ、ずれていると笑われ、
頭が固いと非難され、そして、彼のいる高校への道も閉ざされてしまった。

「兄さんみたいに、なりたいのにな・・・」


ふと気がつくと、式は進んでしまっていた。
牧師の声が耳に入ってくる。

「それでは、誓いの言葉を。
氷室零一、貴方は、この女を貴方の妻とし、永遠に愛することを誓いますか?」

「誓います」
従兄弟の低いが良く通る声が、教会中に響いた。

、貴女は、この男をあなたの夫とし、永遠に愛することを誓いますか?」

「誓います」
花嫁の声は、フルートの音色のように鮮やかだ。

「それでは、誓いのキスを」

牧師に告げられた、その瞬間。
彼の背中に、明らかな変化が見えた。

「!!!」

動揺。
緊張。
混乱。

今までの彼が、一度も見せたことのない色。
ロボットのように完璧だと思っていた彼が、初めて見せる人間らしさ。

「ぷっ。」
格は思わず吹き出した。

なあんだ、兄さんだって完璧じゃない。
ほら、ベールを上げる手が、小刻みに震えてるし。
あーあ、それじゃあ肩をつかみすぎだよ。花嫁さん、痛そうだし。
うわ、やばいだろそれ、口がタコ・・・。

今にも笑い出しそうなのをこらえながら、もう一度二人を見る。

肩をつかんだまま硬直し、なかなか顔を寄せられない彼の頬に、
花嫁がそっと指先を伸ばす。

「大丈夫」

その指先が語るのが、そこにいた誰にでもわかった。
瞬間、魔法が解けたように、彼の緊張が緩む。

相変わらずぎこちなくはあったけれど、動きが再開する。
壊れ物を扱うようにゆっくりと、距離が近づく。
そして、瞬きよりもきっと短いキス。
いかにも彼らしい、って誰もが思っただろう。

真っ赤な顔の花婿と、自分と同じく笑い出しそうな花嫁。
その二人のキスシーンは、ここにいる皆を幸せにしてくれた。
もちろん、本人たちが一番幸せなんだろうけど。


セレモニーを無事に終え、ライスシャワーを受けている従兄弟の背中を見ながら、格は思った。

やっぱり、兄さんみたいになりたい。
完璧である必要はない。
完璧じゃなくたって、誰かがきっと補ってくれる。
彼にとっての彼女のように。
僕にもきっと現れる、運命の女性が。
そうだよ、だって僕は彼の従兄弟なんだから。

そんなことを考えていたら、階段を踏み外した。
それが今後の運命を暗示していたなんて、格は知らない。


Fin


 



5年ぶりに書いた〜。勝手が全然わかんなくなってるよぉ。
メッティのキャラはこんなんだろうか・・・・。違うと思う。
当初は零一さんとメッティの会話を書こうと思ったんだけど、ストーリーがそれたので
また別のお話で書くことにしようと思います。とりあえず書き逃げ〜。


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