Waiting for you



カチ、カチ、カチ、カチ・・・・
秒針の動く音がやけに大きく響く。

遠くの方で、ひそひそ話が聞こえる。

「あの人、ものすごく落ち着かないわね。」
「本当。冷静そうな顔してるのに。」
「あんな大きな体なのに、ね。」

行って体格と精神状態の相関性がないことを
訴えたい気持ちになったが、それよりも私が
今直面している事実の方が重要なのだ。

私は待っている。その瞬間を。



私の中で、時間はいつも正確に過ぎてゆくものだった。
ただ、単調に、狂うことなく。

しかし彼女に出会ってから、それは変わった。

彼女を想う夜、時間はとてももどかしく過ぎた。
彼女に会える朝を待って、寝返りを繰り返す自分が
とんでもなく情けない人間に思えた。

彼女に想いを告げ、それが受け入れられてからは
時間は矢のように早く過ぎるようになった。
一瞬でも長く、その時を過ごしたい想いが
私に彼女との永遠の約束をさせた。

そして今、私はまた再び、もどかしい時間を過ごしている。



コツ、コツ、コツ、コツ・・・・
じっとしていることができず歩き回る私の靴音が響く。

そして、待ち望んだ声が聞こえた。

「おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」
  ・
  ・
  ・

「おめでとうございます、元気な女の子ですよ。」
「・・ありがとうございます。」
「さあ、お母さんと赤ちゃんですよ。」

「・・零一さん」
「よく、頑張ったな」
「ふふ、零一さんも」
「私が?」
「だって、落ち着かなくて倒れそうな顔してた、って看護士さんが言ってたわ。」
「・・・」
「立ち会ってもらわなくて良かったかも。本当に倒れられたら大変だもの。」
「・・つまらないことを・・」
「うふふ。まあいいから、赤ちゃん、抱っこしてあげて。」
「・・ああ・・」

壊れそうに小さなものが、私の腕の中で眠っている。
まだ自分の子供であるという実感はない。
しかし込み上げてくるなんとも言えない愛しさが、私を困惑させる。
戸惑いながら私は、彼女に初めての言葉をかけた。

「はじめまして、君を、ずっと待っていた・・・・」


Fin


 



約8ヶ月ぶり(滝汗)の新作です。何故こんなに間が開いてしまったのか、の理由がこの作品。
つまりさきは出産して母となったのでした(^-^) 実際の私の子は男の子なんですけれども、
過去作品で先生の最初のお子さんは女の子、という設定でしたのでこうなりました。
私の場合夫は立ち合いだったし、かなり違います。Girl's Sideも書いてみようかなあ?



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