Waiting for you カチ、カチ、カチ、カチ・・・・ 秒針の動く音がやけに大きく響く。 遠くの方で、ひそひそ話が聞こえる。 「あの人、ものすごく落ち着かないわね。」 「本当。冷静そうな顔してるのに。」 「あんな大きな体なのに、ね。」 行って体格と精神状態の相関性がないことを 訴えたい気持ちになったが、それよりも私が 今直面している事実の方が重要なのだ。 私は待っている。その瞬間を。 私の中で、時間はいつも正確に過ぎてゆくものだった。 ただ、単調に、狂うことなく。 しかし彼女に出会ってから、それは変わった。 彼女を想う夜、時間はとてももどかしく過ぎた。 彼女に会える朝を待って、寝返りを繰り返す自分が とんでもなく情けない人間に思えた。 彼女に想いを告げ、それが受け入れられてからは 時間は矢のように早く過ぎるようになった。 一瞬でも長く、その時を過ごしたい想いが 私に彼女との永遠の約束をさせた。 そして今、私はまた再び、もどかしい時間を過ごしている。 コツ、コツ、コツ、コツ・・・・ じっとしていることができず歩き回る私の靴音が響く。 そして、待ち望んだ声が聞こえた。 「おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」   ・   ・   ・ 「おめでとうございます、元気な女の子ですよ。」 「・・ありがとうございます。」 「さあ、お母さんと赤ちゃんですよ。」 「・・零一さん」 「よく、頑張ったな」 「ふふ、零一さんも」 「私が?」 「だって、落ち着かなくて倒れそうな顔してた、って看護士さんが言ってたわ。」 「・・・」 「立ち会ってもらわなくて良かったかも。本当に倒れられたら大変だもの。」 「・・つまらないことを・・」 「うふふ。まあいいから、赤ちゃん、抱っこしてあげて。」 「・・ああ・・」 壊れそうに小さなものが、私の腕の中で眠っている。 まだ自分の子供であるという実感はない。 しかし込み上げてくるなんとも言えない愛しさが、私を困惑させる。 戸惑いながら私は、彼女に初めての言葉をかけた。 「はじめまして、君を、ずっと待っていた・・・・」 Fin