Trappin' Wheel


任務の遂行には細心の注意を要する。くれぐれも対象にその目的を悟られてはならない。


 氷室先生との「社会見学」。今日で何回目になるだろう。

 遊園地や博物館、クラシックのコンサートにも行ったけど、
先生が一番楽しそうなのはやっぱりドライブだ。

 先生は、毎回いろんなコースを考えてきてくれる。朝から晩まで目いっぱい、
それこそ分刻みのスケジュールで「社会見学」は進む。
 海も、山も、名所観光も、先生にかかれば全部学習対象になってしまうのだけれど、
良い返答をしたときの先生の笑顔が見たくて、私は予習を欠かさなかった。

 メインの目的地はさまざまだけど、最終目的地はは決まって臨海公園。
先生は理由を言わなかったけど、推測するに夕暮れの海が好きみたい。
私はそれを逆手にとって、ある計画を立てた。



作戦その一:大観覧車に誘う

 いつものように車を止め、海を眺める氷室先生。
その横顔は、とても優しい。こんな顔を知ってるの、学校中で私だけだと思うと
優越感に浸れる。ずっと、独り占めできたらいいのにな・・・。

「すっごく楽しかったです!今日は誘ってくださって、ありがとうございます。」
「いや・・・私も有意義な時間を過ごした。礼を言うのは私のほうだ。
。またいずれ・・・君を誘うかもしれない。」
「ぜひまたお願いします!」
「車で家まで送ろう」
「・・・その前に、お願いがあるんです。」
「なんだ?言ってみなさい。」
「あの、大観覧車に乗りたいんです。先生と一緒に。」
といって私は後ろに見える大観覧車を指差す。
先生は私の突然のわがままに困ったような、怒ったような表情。
「ダメだ。」
「お願いします!」
「これ以上遅くなっては、ご両親に心配をかける。あきらめなさい。」
「うちのことなら大丈夫です。うちの門限は8時、今は5時半です。
あの観覧車が1周に要する時間は約15分、乗り込むまでの待ち時間は約10分です。
計25分、予期せぬタイムロスを考慮に入れても、30分で終わります。
それから家に帰っても、門限には十分間に合いますから。」
「しかし・・・」
「先生、もしかして高いところが苦手とか? ・・それなら無理には誘えませんけど・・。」
「そんなことはない。お化けへの恐怖と同じく、私は高さへの恐怖も完全に克服している。」
「じゃあ、いいじゃないですか。」
「・・仕方ない。今回だけだ。」
「ありがとうございます!!」

私は渋々顔の氷室先生と一緒に、観覧車乗り場に向かった。

「大きいですね〜。」
「直径が100m、1周に要する時間が15分ならばゴンドラの回転速度は・・・」
「800πm/h、時速約2.5kmですね。」
「正解だ。」

予定通り10分で順番が回ってくる。

「さあ、先生、乗りますよ。」
「わかっている。」



作戦その一終了。作戦その二:さりげなさを装うこと

 ゴンドラの扉が閉められ、二人きりの空中旅行が始まる。
車の中とはまた違う密室のシチュエーションに心が躍る。

「時速2.5kmって、結構ゆっくりですね。」
「そうだな。たまにはこうしてのんびりと景色を眺めるのも悪くない。」
「昼間でもないし、夜景でもないし、夕暮れの景色って私、好きです。」
「そうか。私もこの時間帯は好きだ。」

窓の外の微妙な色使いは、いつか先生が連れて行ってくれた場所を思い出させる。
私を息抜きに連れ出してくれた先生、あの時初めて、先生の優しさに触れた。
あの時から私の心に芽生えた、小さな独占欲。私以外の子に、こんなことしないで・・・。

「もうすぐ、頂上みたいですね。」
「ああ。」
「私の家は、あの辺かな。暗くなってきたから、よく見えないけど。」
「君は、時折非常に子供っぽい発言をするな・・・。」
「先生の家は、どの辺ですか?」
「私の話を聞いているのか?」
「どこですか?」
「・・・そうだな、ちょうどあの辺りだ。」
と言って、私とは逆方向の窓を指差す。
「へえ、私の家からは結構遠いんですね。」
「そうだな・・・あっ。」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない。忘れなさい。」
「・・・?」

あっという間に過ぎた15分。夕暮れは既に夜へと変わっていた。

「楽しかったです!わがまま聞いてくださって、ありがとうございました!」
「いや・・私も久々に童心に帰った。さて、今度こそ車で家まで送ろう。」
「お言葉に甘えてお願いします。」
「では、乗りなさい。」



「ありがとうございます。わざわざ家まで。」
「問題ない。私の帰・・・」
「どうかしましたか?」
先生は私の顔色をうかがうように見る。
「いや、なんでもない。・・それでは。」


作戦その二終了。任務は成功した。今後も対象にはこのことを悟られてはならない・・・。

 そう、今日の観覧車は私が先生に仕掛けたトラップ。
毎年届く年賀状に書かれてある住所は私の家とは相当離れている。
先生のいつもの台詞、「君の家は私の帰路にある」は嘘だってこと、ずっと前から知っていた。
嘘をついてまで、私を車に乗せてくれてるんだって。それって期待していい、ってことだよね。

 だけどもういいかげん、素直になって欲しかったから、その言い訳を封印させてもらった。
次からは、なんて言って送ってくれるのか、楽しみにしてるよ。先生♪



。奇遇だな。私も今帰るところだ」
「一緒に帰りませんか?」
「そうだな。それもいいだろう。」

・・・うーん、まあ、いいか。





Fin


 



主人公、策士。せっかくの観覧車なのにロマンティックな会話しないし。ED後の話だったら
もうちょっと甘くできたかもしれないけど、在学中なのでこんな感じかな?(←苦しい言い訳・・・)
基本的には先生の家は主人公の家に近いと思ってるんですが、今回は嘘ということにしてみました。
一緒に帰るために遠回りしてくれていたら嬉しいな、って思って。なさそうだけど・・・。



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