HOTなBIRTHDAY

今日は私の誕生日。
瑛くんがお祝いしてくれる、というので珊瑚礁までやってきた。

扉を開けると、ふわっといい香り。

(・・・これって・・・)

「よう、、遅いぞ。チョップだ。」
「ごめん、出掛けにお隣のおばさんに掴まっちゃって・・・。」
「ああ、遊の母さん。あの人、お喋り好きそうだよな。」
「そうなの。『うちの遊、最近すっかり生意気になっちゃって・・・』から始まって・・・」
「ストップ。今その話は関係ない。」
「ああ、そうだったね。ごめん。」
「わかればいいんだよ。とにかくそこ座れ。」
「うん。」

そういうと瑛くんはキッチンに戻っていった。

瑛くんとお付き合いを始めて、随分経つ。
相変わらずぶっきらぼうで天邪鬼だけど、その中に隠れている本音を読み取るのにはもう慣れた。
今の会話を翻訳するなら「遅いから心配した。他の奴の話なんかどうでもいいから俺だけ見てろ。」ってところかな。

「何ニヤニヤしてんだよ。変な奴。」
「なんでもないよ。それより、何持ってきてくれたの?」
「お待たせしました、佐伯瑛特製カレーでございます。」

コトリ、と小さな音を立てて目の前に真っ白なお皿が置かれる。
お皿の上には、きれいに盛られたツヤツヤのご飯。

「お客様、ルゥをおかけしてもよろしいですか?」
「あ、はい。お願いします。」

もったいぶった手つきで、瑛くんが銀のカレーポットを捧げ持つと、
きれいな褐色のルゥが滑らかにご飯の上に注がれた。

「わぁ・・・」

でも、ルゥはさらさらで、具の姿が見つからない。

「・・・お前、今、具がなーい(´・ω・`)とか思ったろ。」
「え? う、うん・・・」
「具はこっち。」

そう言って瑛くんが取り出したお皿には、きれいにカービングされた素揚げの野菜と、
とろとろに煮込まれたお肉が載っていた。

「それでは、トッピングを致します。」
「よろしくお願いします。」

お野菜とお肉が、絶妙なバランスでカレーに載せられていく。
瑛くんの手は、大きくてがっしりしているけど、こういう作業をやらせると、とても器用だ。
そして、この手が私に触れるとき、それは更に繊細で、優しくて・・・。

「おい、何ボンヤリしてんだ。盛り付け、終わったぞ。」
「あっ、ごめん・・・。」
「俺の手見つめて、何想像してたんだよ。やーらしー。」
「や、やらしいって何よ! 何も想像してないって!」
「あ、赤くなってる。やっぱりお前・・・」
「違うって! もう、カレー冷めるから! 食べていい?」
「あ、ああ。どうぞ。」

きれいに盛り付けられたカレーライスはどんな高級レストランにも負けない美しさ。
添えられたスプーンまで輝いて見えるのはなんでだろう。

「じゃ、いただきまーす。」

スプーンをそっと差し込み、一口分をすくい上げる。
大事なものを扱うように、慎重に口まで運ぶ。

ぱくり。

(!?)

「おい、どうした?」
「ひゃらい・・・」
「ん?」
「ひゃ、ひゃらいよへるふん・・・」
「ハァ?」

急いで水を口に流し込むと、私は叫んだ。

「辛いよ瑛くん!!!」

「は? そんなに辛くないだろ。」
「辛いよ!!!」
「・・・貸してみ。」

瑛くんはいきなりスプーンを持った私の手を掴み、カレーを口に運ぶ。

(あ・・・今の・・・)

「全然、辛くない。」
「嘘!」
「嘘じゃない。」
「そりゃ、辛いもの大好きな瑛くんには辛くないかもしれないけど、私には辛いの! とてもじゃないけど食べられないよ!」
「・・・・・・。 」

明らかに意気消沈の瑛くんを見て、自分のお子様口が申し訳なくなったけど、
ほんとに辛くて食べられそうにないんだもの・・・。

「なあ、ホントに食べられないのか?」
「・・・うん。」
「なあ、頼むよ・・・。食べてくれないと困るんだ・・・。」
「そう言われても・・・。」

一皿のカレーを前に、沈黙が流れていく。

「あの・・・瑛くん?」
「・・・わかった。食えないんじゃ仕方ない。こうしよう。」
「え?」
「カレーは俺が食べる。」
「うん・・・。せっかく作ってくれたのにごめんね?」
「ただし。」
「ただし?」
が俺に食べさせること。いいな?」
「えええ? どうして???」
「どうしても。」
「ヤダよ・・・。」
「俺が心をこめて作ったものを食べられないんだから、そのくらいしろ。」
「瑛くん・・・意味がわからないよ。」
「いいからやる!」

そう言って瑛くんは、隣の席にどかっと座り、口をあんぐりと開けた。

「あーん。早くしろよ。」
「・・・ホントにやるの?」

口をあけたままこっくりと頷く瑛くん。
やらないでいたら、きっと酷い目に会うよね・・・。

「わかったよ・・・。じゃあ、あーん。」

一口ずつ、慎重にカレーをすくって、瑛くんの口に運ぶ。
もぐもぐと口を動かす瑛くんを見ていたら、なんだか・・・。

「瑛くん、カピバラみたい。」
「ぶっ。そ、それはお前だろ! 食ってるときに変なこと言うなよ。危険なことになるとこだった。」

瑛くん、真っ赤だ。
そんな瑛くんを見て、なんだか楽しくなってきた。

「瑛くーん、はい、あーん。」
「お前・・・調子乗るな。」

それでも素直に口を開けて、カレーをもぐもぐする瑛くんが、たまらなく愛しくなる。
せっかく瑛くんが作ってくれた料理、自分で食べられなかったのは残念だけど、
こんな表情が見られたのは、お得だったかもね・・・。

「そろそろいいぞ。」
「えっ?」
「皿。」
「??」

カレーがあらかたなくなったお皿。
よくよく見ると、真ん中辺に何か描いてある。
少し残っているカレールゥをよけてみると、ピンクのハートに囲まれた文字があった。

Happy birthday!
いつまでも一緒に  瑛


「瑛くん・・・これ・・・」
「お、お前がカレーを食べ終わったら見られるって思って・・・。
辛くて食べられないとは思ってなかったし・・・。
代わりに俺が食べるのはいいけど、お前がカレーをすくわないと意味ないから・・・。」
「瑛くん・・・。」
「・・・・・・。」
「ありがと。」
「うん。」

あーんをしていたときより、更に照れたような瑛くんが可愛い。

「瑛くん。」
「・・・何?」
「大好き!」
「・・・・・・・・・・・・俺も。」

二人の影が重なる。
少し残ったカレーの香りとともに。

二口目のカレーは、さっきより少し、甘かった。


        * * * * *


「ねえ、ケーキは?」
「は?」
「ねえ、あるんでしょ? バースデーケーキ。 私、メインディッシュ食べられなかったんだよ?」
「だーっ、お前ってホントに・・・。 まあしょうがないか。 あるよ、自信作だ。」
「やったー! 瑛くん大好き!」

溜息をつきながら、キッチンに戻る背中を追いながら、心の中で呟く。

(ありがとう、最高の誕生日だった。ずーっと、一緒にいようね・・・。)

Fin


 



あいらさんお誕生日おめでとう!SSです。
なにげに瑛初書き。デイジー視点も初書き。
思いついてから数時間、頑張った私www

瑛ってコレでいいですか、違ったらごめんねあいらさん!!!

発想の基本は、この日の午前中にクルルカレー皿が届いたことかな。
なんていいかげんな!!

私はいつか、瑛と激辛勝負をしたいと思っています。絶対勝つぜ〜。くーっくっくっ。

では^^。



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