ワインレッドの誘惑 大胆なドレスを人前で着ていた彼女を諭し、自分の独占欲を確認させられた私は この誘惑の多い状態から脱しようと、とにかく彼女を着替えさせることにした。 私はクローゼットからクリーニング済みのシャツを取り出すと、彼女に渡した。 「とにかく、その格好では・・・目のやり場に困る。これに着替えなさい。 着替えたらリビングに来なさい。コーヒーでも淹れておこう。」 「はい。わかりました。」 それだけ言うと、私は振り返らずに寝室を出ようとした。 「あ、零一さん、ちょっと待って!」 「なんだ?」 「あの、背中のファスナーを・・・」 「な・・・わ、私に手伝え、と・・・?」 「すみません・・・自分じゃ届かなくて・・・」 「き、君は自分ひとりで着替えられないような服を・・・」 「ごめんなさい・・・。」 「・・・仕方ない・・・」 私は頬が高潮するのを感じながら、彼女に近づいた。 「せ、背中を向けなさい。」 「はい・・・」 おずおずと手を伸ばす。指先が震える。 なるべく肌に触れないように、小さな金具を外し、ファスナーを少し下ろしてやる。 「こ、これでいいか?」 「あの、できたらもう少し下まで・・・。」 「まだ、か?」 再びファスナーを下げてやる。ちりちりというかすかな音が異常に大きく耳に届く。 恥ずかしさで手元を見ていられず、固く目を閉じた。 「もう、いいだろうか・・・」 「半分くらいまで開けてくれました?」 「半分?」 目を開けてみる。半分どころか1/3にも達していない。 しかし露になった白い背中は、私を誘惑するに十分だった。 「!! 零一さん?!」 突然首筋に寄せられた唇に、彼女は驚きの声を上げる。 「ななな、何してるんですかーっ?!!」 私は構わず、背中のほうに唇を這わせていく。 「やっ、やぁん・・・」 今までためらっていたのが嘘のように、一気にファスナーを全開にする。 背中から腰への柔らかな曲線を指でたどる。 「だ、だめです・・・そんなことしちゃ・・・」 「君が私を誘惑したんだ・・・」 「誘惑なんかしてません!と、止めてください!」 「私が、嫌か?」 「い、嫌じゃないです!大好きです!!! だけど・・・」 「だけど?」 「まだ心の準備が・・・」 「その準備はいつできる?」 「わ、わかりません! でもとにかくまだなんですーっ!」 「・・・そうか」 私は体を離す。 振り返った彼女は、また瞳に涙を溜めている。 「・・コホン。すまない、少し先走りすぎた。しかし、覚えておきなさい。 私は君を、愛している。君が欲しい、と思っている。私も君の前ではただの男だ。 しかし、君を傷つけることは本意ではないから、私は自分を抑制している。 君が私を求めるときまで、時期を待つつもりだ。しかし、今日のように度々 誘惑されると・・抑制が効かなくなることもある。そういうことだ・・・。」 「ごめんなさい、でも私、そんなつもりじゃ・・・」 「わかっている。故意ではないことは承知だ。しかし何気ない言動が 人に大きな影響を与える、ということも覚えておきなさい。」 「はい・・・。」 「わかったらもう泣くな・・・。」 私は彼女に顔を寄せると、そっと瞼に口付けた。 零れ出した涙を追って、頬にも唇を寄せる。 最後に唇に軽く触れると、再び体を離した。 「さて、今度こそちゃんと着替えなさい。その刺激的な格好の君とはもう一分たりとも 一緒にいられそうにない・・・。」 背中のファスナーは全開、肩紐もずり落ちた状態の彼女。 ここで我慢できるのは私くらいのものだろう・・・。 私は今度こそ振り返らずに、寝室を出た。 後ろ手にドアを閉めながらひとつ、ため息をつく。 「あのまま暴走しなくて良かった・・・。かなりギリギリではあったが・・・。」 ワインレッドの酔いを覚ますため、私はコーヒーを淹れにキッチンに急いだ。 何を飲んでも、二日酔いになりそうでな気分がしていたが・・・。 それほどに強い、彼女の誘惑・・・・。 Fin