ワインレッドの魔術



まともに彼女を見られない・・・・。
自分を失ってしまうような気がして・・・・。


待ち合わせ場所に現れた彼女を見て、はっと息を呑んだ。
まるで別人のような雰囲気を漂わせる、ワインレッドのドレス。

「どうしたんだ、その服装は・・・?」
「あ、これですか? 来月、従姉妹の結婚式に出席するんですけど、
そのためのドレス、今日母に買ってもらったんです。せっかくだから
零一さんに見て欲しいな、って思って、そのまま着てきちゃったんですよ。
あの・・・似合いませんか?」

そういって無邪気に微笑む彼女がまぶしくて、つい目をそらしてしまう。

「いや・・・そんなことはない。よく似合っている、と思う。
しかし・・・街を出歩くには少し・・・華美ではないのか?」
「やっぱり、街中でドレスはちょっと派手でしたね・・・。でも、着替えは
母が家に持って帰っちゃったし・・・。」
「・・・とりあえず、これを着ていなさい。露出過度だ。」

私はスーツの上着を脱ぎ、彼女に渡す。
小柄な彼女には大きすぎてアンバランスなのだが・・・。

「うわーっ、こんなに袖があまりますよ。なんかお化けみたい。」
「くだらないことを言ってないで、早く来なさい。君の家まで送っていく。」
「えーっ、デートはなし、ってことですか??」
「そうではない。もう少し・・・落ち着いた服に着替えてきなさい、ということだ。」
「うーん、せっかく着たのになあ・・・。そうだ、同じ家なら零一さんの家に行きましょうよ。」
「私の家?」
「そうです。街を歩くには派手でも、家の中ならいいでしょう?
せっかくのドレスなんだから、すぐ脱いじゃうのもったいないじゃないですか。
もっとよく見て欲しいし。」

彼女は目をそらしたままの私の顔を責めるように覗き込む。

「ねっ、そうしましょう?」
「・・・ダメだ。」
「どうしてですか?」
「私が、困る。」
「なぜ?」
「・・・・・・」

今の彼女と部屋で二人きりになどなったら、理性を保つのが非常に困難であることは
想像に難くない。それにはまだ、時期尚早だ・・・。

「零一さん、やっぱり、このドレス私には似合わないと思ってるんですね。
さっきから全然こっち見てくれないし。わかりました。やっぱり今日は帰ります。
上着、ありがとうございました。」

そういって私に上着をつき返した彼女は、くるりと踵を返して歩きだす。

「おい、待ちなさい!!」
「・・・・・・」

呼びかけても振り返る様子はない。こうなった彼女はかなり強情だ。
こういったストレートな感情表現も彼女が私を魅了するポイントではある。
ため息をひとつつき、私は意を決すると、彼女を追いかける。

「待つんだ。」
「嫌です!!」
「全く、君は・・・」

足を止めない彼女の肩をつかみ、立ち止まらせる。

「無理しなくていいですよ。この格好の私とは一緒にいたくないんでしょう?」
「ある意味ではそうだ。」
「やっぱり・・・。帰ります。」
「待ちなさい、君はもう少し思慮深くなる必要がある。」

肩を振りほどこうとする彼女を、高く抱き上げる。
彼女は少し怒ったような、不安なような瞳で私を見つめた。

「やだ、降ろしてください。」
「ダメだ、こうでもしないと君は逃げるだろう。」
「でも・・・」
「話を聞きなさい。このドレスは大変君に似合っている。先程の言葉は嘘ではない。
私が君を見られなかったのは、魅力的で目のやり場に困ったからだ。
だから着替えなさい、と言ったのに君はそれを拒否した。ならば君の希望どおりにしよう。」
「私の希望って・・・」
「このまま私の家に連れて行く。君が希望したのだからな、どうなっても知らんぞ。」

そういって私は彼女を抱えたまま車へと歩き始める。

「えっ?えっ? 零一さん、どうなっても知らない、ってどういうことですかっ?」
「・・・秘密だ。」
「わーっ、降ろしてくださいっ! ねえ、私の家に行きましょ、すぐ着替えてきますからっ!」
「キャンセルは受け付けない。」
「キャーっ!!」
「私を誘惑するような服を、着てきた君が悪い。覚悟しなさい。」


ワインの赤は、その色だけで人を酔わせる魔術があるらしい・・・・。
すっかり術にはまった私の勢いは誰にも止められそうにない。



to be continued・・・・




雨宮さんの素敵なイラストにそぐわないような展開でごめんなさいっ。
零一さん暴走気味、お持ち帰りしてどうするつもりなんでしょう??
主人公ちゃん、気をつけてね(^-^)/~~~ (遅いって。)

8/8 続編アップいたしました。




続編 ワインレッドの涙


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